高齢者が一人暮らしを続けるには、多くのサポートが必要です。特に、判断能力の低下や身体的な不自由さが生じた場合、適切な支援が不可欠です。事務委任契約付き移行型任意後見制度を活用することで、高齢者が安心して暮らすための体制を整えることを提案しています。
本記事では、これらの制度の概要と実際の活用方法について詳しく解説します。
高齢者の一人暮らしの現状と課題
高齢者の一人暮らしの現状
高齢化が進む日本では、高齢者の一人暮らしが増加しています。厚生労働省の調査によると、2020年には高齢者世帯の約27%が一人暮らしとなっており、その数は今後も増える見込みです。多くの高齢者は、自由で自立した生活を望んでいますが、健康面や経済面での不安も抱えています。また、孤立感や認知症のリスクも高まるため、地域社会や家族による支援が重要です。
一人暮らしの高齢者が安心して暮らせる環境を整えるためには、行政や地域のサポートが欠かせません。
一人暮らしの高齢者が直面する課題
一人暮らしの高齢者が直面する課題は、主に以下の3つです。
まず、健康問題です。加齢に伴い、持病や体力の低下が進行し、緊急時に迅速な対応が困難になることがあります。
次に、孤立感の問題です。一人で暮らす高齢者は、家族や友人との交流が減り、孤独を感じやすくなります。
最後に、日常生活の負担です。買い物や掃除などの家事を一人でこなすことが難しくなり、生活の質が低下する可能性があります。
これらの課題に対応するためには、行政や地域の支援が不可欠です。そこで、個々の高齢者と行政や地域とネットワークを構築するために成年後見制度を利用することを提案しています。
成年後見制度の役割
成年後見制度は、判断能力が低下した高齢者や障害者を法的に支援するための制度で、大きく、成年後見・保佐・補助の「法定後見」と「任意後見」に分かれています。
それぞれの役割は、本人の判断能力に応じて異なる支援を提供することです。
法定後見について
まず、成年後見は、判断能力がほとんどない場合に適用されます。成年後見人が選ばれ、本人の財産管理や契約手続きを全面的に代行します。これにより、詐欺や不正な取引から守ることができ、本人が安全に生活を送ることができます。
次に、保佐は、判断能力が著しく不十分な場合に適用されます。保佐人は、重要な契約や財産管理の際に本人をサポートしますが、本人の意思も尊重されるため、後見制度よりも本人の自主性が残される仕組みです。たとえば、借金や不動産売買などの大きな取引に関して、保佐人が同意する必要があります。
補助は、判断能力が一部欠けている場合に適用されます。補助人は、本人が同意した特定の範囲でのみ支援を行います。これは、本人の自立をできる限り尊重しつつ、必要な支援を提供するというバランスを取った制度です。補助人は、本人の希望に応じて、特定の契約や財産管理をサポートします。
任意後見制度とは
任意後見は、将来に備えて自分で後見人を選び、契約を結んでおく制度です。任意後見契約を結ぶことで、判断能力が低下した際に、信頼できる後見人が本人の意思に基づいて財産や生活をサポートします。この制度は、本人の意思を最大限に反映させることが特徴で、将来の安心を確保するための重要な手段です。
委任者が、受任者に対し、精神上の障害により事理を弁識する 能力が不十分な状況における自己の生活、療養看護および財産の管理に関する事務の全部または一部を委託し、その委託に係る事務について代理権を付与する委任契約であって、実際に、精神上の障害により事理弁識能力が不十分になったときに、家庭裁判所によって任意後見監督人が選任されたときから効力が発生する契約をのことを任意後見契約といいます。
任意後見契約は事理弁識能力に問題がない時点において委任者本人が事理弁識能力が不十分となったとき以降の財産管理等のあり方を決定し、その決定に従って、実際に事理弁識能力が不十分となった後の財産管理等がなされるものであり、委任者本人の自己決定を高度に尊重する成年後見制度1つです。
かかる任意後見契約は、精神上の障害(認知症、知的障害または精神障害等)により事理弁識能力が不十分となった場合に利用が限定されており、単に身体が不自由であることから財産管理が困難となっている場合には利用ができません。
任意後見契約の類型
任意国権契約の類型には将来型・移行型・即効型の3つがあるが、当事務所では、移行型任意後見契約による高齢者支援を提案しています。
将来型は、十分な事理弁識能力を有する本人が契約締結の時点では受任者に財産管理等の事務の委託をせず、将来自己の判断能力が低下した時点ではじめて任意後見人による保護を受けようとする契約形態です。
事理弁識能力が不十分になった後の任意後見人を誰にするか、そして、どのような事務を委託するかなどについて本人自身の自己決定を尊重しようとするものであり、任意後見契約に関する法律の法文に即した形で契約される委任契約です。
即効型は、本人が軽度の認知症・知的障害・精神障害等の状況にあって、任意後見契約締結直後に契約の効力を発生させる場合に用いられる契約形態です。この場合は、契約締結後直ちに、任意後見受任者などの申立てにより家庭裁判所に任意後見監督人を選任してもらい、契約当初から任意後見人による財産管理等が行われます。
軽度の認知症などによる補助や保佐の対象者であっても契約締結時に意思能力があれば任意後見契約を締結することができます。そこで、本人の事理弁識能力が不十分であるにもかかわらず、財産管理等を誰にどのように委ねるのかについて明確な意思を持っているような場合に、そのような本人の意思を尊重するために活用される契約形態です。
移行型は、財産管理等を内容とする民法上の委任契約(事務委任契約)と任意後見契の2つの契約を同時に締結することにより、本人の事理弁識能力が不十分となったときに、通常の財産管理等の委任契約から任意後見契約に移行する形をとる契約形態です。
すなわち、契約締結時より本人が十分な事理弁識能力を有する間は、事務委任契約により任意後見受任者が本人の財産管理等の事務を行い、本人の事理弁識能力が不十分となった後、任意後見監督人が選任された時点からは任意後見契約による財産管理等に移行するという契約形態です。
本人が、現在、事理弁識能力が不十分とまではいかないまでも、高齢等のため将来の財産管理行為に不安を覚えているような場合や、身体が不自由であることから財産管理が困難となっている高齢者の場合、このような本人の気持ちを汲み取り、任意後見監督人が選任される前期間についても、事務委任契約により財産管理等を適切に行うことのできる契約形態です。
高齢者支援の具体的な方法
高齢者支援には、さまざまな具体的な方法があります。それらは大きく分けて、日常生活のサポート、健康管理、社会的なつながりの維持、経済的な支援、そして地域社会との連携です。
日常生活のサポート
日常生活のサポートとしては、家事や買い物、食事の準備、掃除などの支援が挙げられます。これには、訪問介護サービスや家事代行サービスの利用が効果的です。特に、一人暮らしの高齢者にとって、これらの支援は生活の質を維持するために欠かせません。
健康管理
高齢者が医療サービスを利用することで、健康を維持し安心して生活することができます。定期的な健康診断や検診は、病気の早期発見や予防に役立ちます。また、通院が難しい場合には、訪問診療を利用することで自宅で医師の診察や治療を受けることが可能です。さらに、在宅医療を通じて、病院ではなく自宅で療養することも支援されます。これらの医療サービスを適切に活用することで、高齢者が自分のペースで健康的な生活を続けることができます。
移行型任意後見契約を締結することで任意後見受任者は、高齢者の代理人として、その意思を尊重した、生活支援サービスや医療サービスの契約をすることで適切にサービスを利用することが可能になります。
公的支援制度と地域資源の活用
公的支援制度の概要
高齢者公的支援制度は、生活や医療、介護をサポートするために設けられた制度です。主なものには、介護保険制度、年金制度、そして医療費助成があります。介護保険制度は、介護が必要な高齢者に対して、訪問介護や施設入所などのサービスを提供します。年金制度は、老後の生活費を支えるための支援で、基本年金や厚生年金があります。また、医療費助成制度では、高額な医療費の負担を軽減するための補助が受けられます。これらの制度を活用することで、高齢者が安心して生活を続けることができます。
これらのうち年金、住宅費の補助、医療費の減免など経済的な支援は、高齢者支援の重要な側面です。、公的支援を適切に利用することで、経済的な負担を軽減できます。また、金融機関と連携して、詐欺や不正取引から高齢者を守るための対策も重要です。
移行型任意後見契約を締結することで任意後見受任者が、高齢者である本人を代理して公的支援制度を本人が適切に利用できるようにする要の役割を果たすことができます。
地域資源を活用した支援方法
地域資源を活用した高齢者の支援方法には、地域包括支援センターやボランティア団体、地域のサロンなどが役立ちます。
地域包括支援センターでは、介護や生活の悩みに対応し、必要なサービスの利用をサポートします。
社会的なつながりを維持することも、高齢者支援の一環であり、孤立感や孤独を防ぐために、地域のサロンや趣味の教室、ボランティア活動に参加することが奨励されています。また、ボランティア団体等の地域の見守り活動や友人・家族(親族)との定期的な連絡を通じて、社会的なつながりを保つことも重要です。これにより、精神的な健康も保たれ、充実した生活を送ることができるからです。
移行型任意後見契約を締結することで任意後見受任者が、高齢者である本人を代理して地域資源としての地域包括支援センターやボランティア団体、地域サロン等と個々の高齢者を結びつけ、適切な利用を可能することができます。
コスモス・オフィスの取り組み
具体的事例
当事務所が札幌に移転して初めての仕事の依頼で、死後事務委任契約を結びたいという高齢のご夫婦(夫)の依頼を受けました。
ご本人(夫)は老人性の難聴で音声は殆ど聞き取れず、右目は失明という障害があり、ご本人の妻は右耳が聞こえず、歩行障害があるということが筆談による面談で分かりました。死後事務委任契約だけではお二人が安心して生活することができないのではないかと考え、話し合いを重ねた結果、事務委任契約付きの任意後見契約と一緒に死後事務委任契約を結ぶことになりました。
公正証書による契約と任意後見契約代理権の登記がされてすぐに、本人(夫)を搬送する救急車からの連絡を受け、搬送先の病院に呼び出されました。本人(夫)は、腸閉塞で手術をし、入院することになりました。入院している本人と家で暮らす本人の妻の生活支援が必要になり、介護関係者と相談し、役割を分担して対応することになりました。本人は退院後、吐血して内科に入院し、夏には食欲がなくなり衰弱し緊急入院し、秋には転んで背骨を骨折し入院。本人の妻は、転倒し2回、救急車で搬送されました。任意後見契約締結からは、他の仕事をキャンセルしてご夫婦の支援のみをすることになりました。
本人(夫)の認知能力が低下して妄想を現実だと思い込むようになり、契約から11か月後に、本人(夫)から契約解除の申し入れがあり、受け入れざるを得ない状況になってしまいました。
ご夫婦の親族の方(夫の弟)から、義姉の契約はそのまま残して兄が亡くなった後の生活を看てもらえないかと言われて承諾しました。
それから1年数ヶ月たった今年の7月13日に、兄が健康を損ねて入院している病院で余命宣告をされたので、義姉を看てもらえないかという連絡をご夫婦の親族(夫の弟)から受けました。
親族の方も高齢で、頻繁に札幌まで来ることができないので、契約は切れているけれども、兄も含めて看てもらえないだろうかと言われた。
できることが限られることを理解してもらった上で引き受けることにして現在に至っている。
成年後見制度を利用した高齢者支援のあるべき姿
いくつかの種類がある成年後見制度ですが、行政書士事務所 コスモス・オフィスとしては、移行型の任意後見契約の事務委任契約の代理権を活用した高齢者支援を基本にしていこうと考えています。
当然ですが、被後見人の状態に応じた後見制度があるのだから、後見人の状態に応じた適切な支援でなければなりません。
当事務所では遺言書作成支援も行っていますが、高齢者から遺言書の相談を受けたときは、現在の不安、心配がないかを尋ねようと思います。遺言書や死後事務委任契約は亡くなった後のことを現時点で安心するためのものなので、現在に不安がない人だけが、単純に遺言書や死後事務委任契約を作成・締結でだけ満足することができることになります。高齢者が自らの意思に基づいた生活ができなくなっている場合に、遺言書や死後事務委任契だけを作成・締結することにあまり意味はないと考えます。
高齢者が現在の生活で安心感を得られるような支援の下で、初めて遺言書や死後事務委任契約が意義を持つと考えています。なので、現在の生活に不安を感じる高齢者には、何らかの支援をしていくことが必要であると考えています。
まとめ
高齢者の一人暮らしを支えめには、多方面からの支援が必要です。移行型任意後見契約は、高齢者が自分の意思で信頼できる後見人を選ぶことができ、事務委任契約によりは、任意後見受任者に日常生活や財産管理を任せることで、高齢者が安心して暮らすためのサポートを受けることができます。
また、日常生活のサポートや医療・介護サービスの利用は、一人暮らしの高齢者にとって不可欠な要素です。
公的支援制度や地域資源を活用することで、より充実した支援体制を整えることが可能です。これにより、高齢者が自立しながらも安心して生活を続けることができます。さらに、死後事務委任契約や遺言書の作成により、相続手続上の紛争を防止することができます。
本記事を通じて、高齢者の一人暮らしを支えるための具体的な方法を理解し、実際の生活に役立てていただければ幸いです。遠くから見守る家族や近所にいる支援者と共に、より安心で快適な生活を実現するための一助となることを願っています。